白黒白日記 1 ノームコアのたてがみ

白黒白日記 (1)ノームコアのたてがみ 

 

2020年1月某日

母の一周忌。遺影の母はプラチナヘア。父が亡くなるまでは髪染めていたから、母は父のために70代まで「若くきれい」でいようとしていたのかしら。私は誰のために染めているのかしら。あと20年染めつづけるかしら。

 

2月某日

頭皮に発疹ができ、カラーリングを躊躇するようになる。

 

3月某日

行きつけの美容院Aにて相談するも、染めるのやめると一気に老けますよといわれて、結局いつもどおりのカラーに。

 

4月某日

コロナ感染拡大で閉める美容院も多い。都からは休業要請も。近藤サトさんが、東北の震災を期に白髪染めをやめたと何かのインタビューで答えていたのを思い出し、良い機会かもしれないと思い始める。なにかきっかけがないと思い切れないものだし、コロナ対策で当分、パーティートーク会もなさそうだし。

 

5月某日

同じ美容院に行ったら、また同じことになりそうなので、思い切って美容院を変えることにする。はじめて行った美容院N。担当は若い男性の美容師Mさん。オーダー時に、白髪染めやめたいから助けて、と正直に相談する。パンダもボーダーコリーも黒と白であんなにかわいいのに、なんで人間はあたまのてっぺんだけ白くて、残りが黒だとこんなにみじめになっちゃうんでしょうか、って言ったら、爆笑されちゃった。それでも移行期のヘアスタイルを一生懸命、提案してくれたので、この人を信頼してみる。白髪染めやめてから、自然な白髪になるまでの移行期間がつらいのよね。半年ぐらいかかる。美容師のMさん、途中で思ったような色じゃないと思ったら、また染めればいいじゃないですか。チャレンジですよと言ってくれる。結局、耳の下ぐらいのショートに。ちょっと新鮮。美容院の帰り道、虹を見たのも何やら良い兆し。

 

6月某日

白髪染めやめたのとツイッターに書いたら、友人たちからけっこう反応があり、皆様おなじようにお悩みの緒様子。「エトセトラ」3号で磯野真穂さんが「けむくじゃらの人類学」という記事で、ムダ毛処理にあれだけ熱心なのに、髪だけは黒く豊かであらねばならないという「女性観」を指摘していて大いにうなずく。そういえば、高校生にあれだけ髪染めるな。パーマはだめといいながら、中年以降ほとんどの女性が髪を染めているって不思議なことよね。しかも、男性はあまり白髪染めをしない。

 

6月某日

魔の3センチは通り過ぎた模様。それをすぎると何か事情があるのねという感じになる。それにしても完成形が想像つかない。白髪染めやめたら、真っ白になるのか、白黒まだらになるんだろうか。自分の髪色がわからないというのも妙な話だな。フランスに住んでいた頃、地下鉄の車内、劇場、教室、頭の色は様々だった。金髪、黒髪、茶色の髪にも薄茶から焦げ茶まで実に様々なヴァリエーションがあり、白髪もスキンヘッドも巻き毛もストレートもドレッドヘアも何でもありだったっけ。

 

6月某日

白いブラウスが好きで何枚も持っているけれど、髪も白、服も白だと浮いちゃうかも。真っ白になったら、色の濃い服のほうがいいかな。「クレーヴの奥方」にヒロインが自分はブロンドなので黄色のドレスが似合わないという箇所があったのを思い出す。確かに、ブロンドの髪で明るい黄色を着ると色がかぶるので、何か差し色をいれないとまとまりがわるいかも。

 

6月某日

芦毛の馬は、生まれたときから白馬ではなく、グレーの馬体が徐々に白っぽくなっていく。ノームコアという牝馬が好きでついつい応援してしまう。

(つづく)