白黒白日記 (3) 白髪三千丈

9月某日

白髪染めやめて半年。バスに乗ったら席を譲られた。だいじょうぶです、と座らなかったのだが、家に帰って夫に話したら、「ありがたく座っておかないと、本当に座りたいときに誰からも譲ってもらえなくなるよ」と言われる。そうなのか。席を譲る条件って何なのだろう。白髪は老人という「記号」なのか。「弱者をいたわる」ときの「弱さ」は何を基準に測れるのか。

 

9月某日

そういえばうちの犬も晩年は白髪が目立ったなあ。

 

9月某日

イヴェントで訳者近影を求められる。2年前にプロの方に撮っていただいたものを使い続けていたけれど、ロング黒髪の写真が「近影」ではないのは明らかなので、取り直し。スマホ自撮りでなんとか。

 

10月某日

佐野洋子さんの絵本『だってだってのおばあさん』は、自分を五歳だと思い込んで、若返ってしまうおばあさんの話なのだけれど、50代で自分が老婆だと思い込めば、「もう老い先短いのだし」と思って大胆になれるかしら。今のうちに白髪になっておけば、70代になったとき、「昔から変わらないわね」と言われたりして。そうえいば、樹木希林さんは、若い時から老け役をやっていましたね。

 

11月某日

李白の五言絶句「秋浦歌」は、「白髪三千丈 縁愁似箇長(はくはつさんぜんじょう うれいによりてかくのごとくながし)」とはじまる。愁い多きなか、私の白い髪はもっともっと伸びていく。雪の白、紙の白、花の白、髪の白。