岩波ホール 惜別

 2022年7月29日岩波ホールが閉館しました。高校生の時から何度も通った映画館です。映画「女の一生」が公開された折、試写会や「友の会」の講演に呼んでいただいたのも良い思い出です。その一方で、しばらく前から「友の会」会員や、観客の平均年齢の高さ(いや、私とて若くないのですが)を案じていたのも事実です。長いあいだの感謝の気持ちに加え、寂しさや、支えきれなかった悔しさもあります。「心の花」4月号掲載の連作に加筆修正したものをこちらに。これも挽歌と言えるでしょうか。

 

 

閉館の知らせを受けてもそこで見し映画は消えず岩波ホール

十階のホールを出でてぽつぽつと感想語りて階段下りぬ

老ゆる日が来るとは知らず「八月の鯨」を見しは二十一歳

葡萄棚の如き文字なりベンガル語大地の歌」で初めて知りぬ

ありしことなかりしことの間にて銀幕揺れる「マリエンバード」

珈琲と映画と本の神保町変はらぬものと変はりゆくもの

ヴィスコンティベルトルッチもリヴェットも岩波ホールのスクリーンで生き

タイトルは忘れてなほも霧深き村さまよへる映画の犬の

 

川喜多かしこさん、高野悦子さん、岩波律子さんの志はこれからも引き継がれていくと信じております。