2024-01-01から1年間の記事一覧

 いくつもの名前とひとつの体

SNSを始めるとき、周囲から「実名を使うのはあぶない」と言われた。かといって、自分の訳書の紹介もしたいし、友人たちに私のことだと気づいてもらわないと不便だ。というわけで、苦し紛れにかつて句会で使っていた俳号もどきの永田永をアカウント名としてツ…

犬の映画 映画の犬

エリセ監督の最新作『瞳をとじて』には犬が出てくる。映画を撮らなくなった主人公が家に帰ると尻尾を振って出迎えるのは犬である。イーストウッド監督の『グラントリノ』でも孤独な主人公に寄り添う犬がいた。 犬の映画は好きではないが、映画の犬は好きであ…

もし、ランボーが ......   ―エリセ監督『瞳をとじて』によせて―

ランボーは、10代で詩集をだし、20代で詩を捨て、30代で死んだ。だが、もし、ランボーが死の間際に再び詩の世界に戻っていたら、と想像する。いや、もし彼の遺作が見つかったら? それは十代の作品と明らかに違うものだろう。天才少年のままでいてほしかった…

私は私の訳したもので出来ている、のか。

永田さんの訳したものが好き、と言って下さる人がいる。素直にうれしい。それなのに、「なぜこの本を訳そうと思ったのですか」と問われると、「編集者から頼まれたので」などと素っ気なく答えてしまい、読者をがっかりさせてしまったこともある。実際のとこ…

変わるけど変わらない ローランサンのグレー

グレーが好きになったのはいつからだろう。ロアシアン・ブルーやワイマラナーの毛色は美しい。パリに住んでいた時も灰色の冬の空は決して嫌いではなかった。黒か白か、零か百かではないニュアンスはやさしさがあっていい。 10代の頃からローランサンが好き…