変わるけど変わらない ローランサンのグレー

 グレーが好きになったのはいつからだろう。ロアシアン・ブルーやワイマラナーの毛色は美しい。パリに住んでいた時も灰色の冬の空は決して嫌いではなかった。黒か白か、零か百かではないニュアンスはやさしさがあっていい。

 10代の頃からローランサンが好きで、アポリネール堀口大学を愛読した。今でもローランサンが好きで、蓼科にあったローランサン美術館が閉館したときは悲しかった。それでも、ここ数年、ローランサン美術館の収蔵作品を中心にあちこちでローランサン展が開かれ、またその作品に再会できるのは嬉しいことだ。

 学生の頃は初期の暗い顔をした女たちが好きだった。グレーが基調だった初期作品から中期になるとコバルトブルー,群青、茜紅色、エメラルドグリーン、銀白、鉛白の七色が中心になる。銀白は明るめのグレーである。その後、後期になると赤や黄色も加わるが、グレーは残る。

 ローランサンの絵はパステルカラーが中心だが、画材はパステルではない。油彩画が多い。「女性的でやさしげ」と言われるが、「働く女」として声を上げることこそなかったものの、女性画家として生き残るだけのしたたかさや、芯の強さも持ち合わせていたはずだ。サロンで人気が出たのも、ブルジョワたちに好まれたのも事実であるが、彼女自身は母子家庭に育ち、裕福な出自ではない。アポリネールとの恋物語ばかりが強調されるが、レズビアンだったとも言われる。

 時代の波を生き抜くなかで、色彩の豊かさは増してゆく。人生は一色ではない。それでも、ローランサンはグレーを抱え続けた。学生の頃、暗い絵に惹かれ、後期作品を「甘すぎる」と思っていた私も、今や彼女の描く若いお嬢さんたちのはつらつとした色彩に見ほれてしまう。だが、主人公である若い女たちの背景にはグレーが塗られている。彼女は暗さを捨てたわけではない。暗いなかに光が差すからこそ、明るい色彩は輝くのだ。