目で読む詩 アポリネールと吉野弘

 昔々、パリの文房具屋で万年筆の試し書きをしようとしたら、店のマダムに怒られました。そのとき、私はつい、縦書きで試し書きをしたため、ペン先に癖がつくことを恐れた店主に注意されたのです。まあ、結局、購入するなら良しとされたわけですが。

 アポリネールの詩に、縦書きの詩があります。もちろんフランス語。「雨」という詩です。フランスでも雨は、上から下に振るものですから、それを文字で再現しようとしたら、こうなったのです(写真左)。美術評論家でもあったアポリネールは詩と絵画の融合をめざし、遊び心もこめて噴水の詩も書いています。

 もっとも、詩にヴィジュアル的な効果を求めたのは、アポリネールに限りません。日本人の詩人も改行によって空間を作品に取り込んでいます。たとえば、吉野弘の詩、「漢字遊び」の一連の作品(写真右)や、分かち書きを多用した高柳重信の俳句にも似たようなものを感じます。多くの場合、詩は「詞(うたことば)」であり、音韻を楽しむものですが、これらの作品は、朗読ではもったいないような気もします。「黙読」ならぬ「目読」向きの詩と言えましょう。

 

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アポリネール「雨」&吉野弘「漢字遊び」