訳者あとがきにかえて スター・ウォーズと哲学

 新しい訳書が本屋さんに並びました。ジル・ヴェルヴィッシュ『スター・ウォーズ 善と悪の哲学」(かんき出版)です。原書には映画タイトル「帝国の逆襲」をもじって「哲学の逆襲」というサブタイトルがついています。

世はサブカル花盛り。NHK Eテレでサブカル講座を担当した宮沢章夫さんが、「メディアで取りあげられるメジャーな演劇はポップカルチャーであって、サブカルチャーの対義語ではない」という趣旨のつぶやきをしていましたが、サブカルの反対はメインカルチャー。本来、王道とされてきた文化、教養とは何かといえば哲学だと思うのです。文学にはラノベが、美術にはイラストやコミックが、映画にはアニメやテレビ・ドラマが入り込み、メインカルチャーサブカルチャーの垣根はどんどん低くなりました。さて、では、ライト哲学は存在するのか。

 サブカルチャーにメインストリームを奪われた哲学も、生き残りをかけ、サブカルチャーとの対立ではなく、共存を模索し始めます。哲学は思考のレッスンである以上、アニメやゲームに器を入れ替えても、哲学でありつづけられるはず。そんな試みが、この『スター・ウォーズ 善と悪の哲学』だったりするのです。著者のジル・ヴェルヴィッシュは、高校の哲学教師。生徒たちにさまざまな疑問を投げかけ、「考えさせる」工夫が本書にも活かされています。

 同様の試みはほかにもあります。監修者の小川仁志氏は『ジブリアニメで哲学する : 世界の見方が変わるヒント』(PHP)や「自分と向かい成長する アニメと哲学」(かんき出版)の著者であり、Eテレで「世界の哲学者に人生相談」という番組にも出演していらっしゃいました。先月刊行になった『本当に大切なことを気づかせてくれるディズニーの魔法の知恵』(かんき出版)の著者シャイヤンは「ゲーム・オブ・スローンズ」を題材にした哲学の本も出しています。

 さあ、メインカルチャーの逆襲が始まりました。これはまた反知性主義に対する啓蒙精神の闘いでもあるのです。

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