本を語る 企画書から書評まで 

 企画書(リーディング)の書き方は、堀茂樹先生の翻訳教室で習った。あらすじや著者紹介に加え、ただの感想文ではだめ。出版社の企画会議を「通す」ために、想定読者層や類書の有無までちゃんと書けと言われたのを覚えている。

 訳者あとがきの書き方は誰も教えてくれなかった。それでも、企画書に書いた情報や売り文句をベースに、訳しながら思ったことなどをつらつらと書き、編集者の助言で少し手を入れることで、ここまで来てしまった。あとがきを先に読む人もいるので、ネタバレは避けるといった暗黙のルールが存在することだけはわかっているつもりだが、解説とあとがきを兼ねる場合は作品の分析と個人的な思い入れのバランスに気を遣う。

 珍しくこんな実務的な話をしだしたのは、「翻訳者、豊崎由美と読んで書く」vol.1(*)を読んだからである。企画書も解説やあとがきの類も、そして書評も、本の魅力を語るためのものであり、平たく言えば、本を売るための言葉でもある。「私はこう読みました」の提示であり、「あなたも読んでみて!」のお誘いをどう書くか。そこに通底するのは、本への愛情であり、熱意であるが、手紙の宛先のように対象となる相手が違う以上、書き方は変わってくる。書評のプロ中のプロ、豊崎由美さんのアドバイスを読んでいると、学ぶことが多い。実は書評の依頼をいただく度に悩んでいたのだ。ただの感想文になっていないか。著者への公開ファン・レターでいいのだろうか。文字数の制限がないブログでは、こうしてだらだらと書いてしまうのだけれども、依頼原稿ではそうはいかない。企画書から書評まで、本の魅力を伝えるための格闘は、本の刊行以前から刊行後まで続くのである。

 

(*)BOOKPOT編集部(Bookpotters) https://bookpotters.stores.jp #storesjp