雪のひとひら

f:id:ngtchinax:20181110123041j:plain

翻訳者が海外文学のおすすめ本を紹介する「はじめての海外文学」という書籍フェアがあります。今年で4回目、私は去年から選書で参加しています。去る11月4日には「はじめての海外文学スペシャル」というイベントも開かれ、各人が持ち時間3分程度で選書理由を語りました。私、今年は、あいにく登壇できず、うーん、くやしい。というわけで、当日登壇していたら、こんな話をしたかったなーというのをここに掲載いたします。

 

 「雪のひとひらポール・ギャリコ作、矢川澄子訳、新潮文庫

 

「はじめての海外文学」というテーマですので、海外文学が敬遠されがちな理由をあれこれ考えてみたのですが、そのひとつが名前のややこしさだと思うのです。そんなわけで、昨年は詩を紹介させていただきました。今年は小説です。でも、主人公の名前はややこしくありません。ヒロインの名は「ゆきのひとひら」さんと言います。天から降ってきた雪のひとひらです。雪のひとひらさんは、やがてお日様をあびて水になり、流されてゆきます。途中で「あめのしずく」さんと出会い、結婚します。ここまで聞くと、絵本かな、童話かなと思うでしょう? でも、私は大人にこそこの本をオススメしたいのです。

雪のひとひらさんは、一面の雪の原のなかでも「こんなに同じ仲間に囲まれているのに、どうして私はさびしいのだろう」と考えます。川を下っていくあいだも「私はなんのためにここにいるのかしら」と自問しつづけます。その姿は、たぶん、今の私であり、あなたなのです。

 自身も詩人である矢川澄子さんの美しい訳文とともに、天から地、そして海への旅をお楽しみください。