猫に育てられた犬 ベラとジョン

  犬は犬として生まれるから犬なのでしょうか、犬に育てられるから犬になるのでしょうか。これはアイデンティティの問題であり、教育の問題です。まずは、映画『ベラのワンダフル・ホーム』の原作、W.B.キャメロン『名犬ベラの650km帰宅』(青木多香子訳、新潮文庫)から。

  犬のベラには三人のお母さんがいます。彼女の産みの親は早々に人間に連れ去られてしまいます。その後、彼女がもらい乳をするのが、野良猫のマザーキャット。やがて、ルーカス(人間!)に引き取られた彼女は、ルーカスの母親を「ママ」として認識します。そんな彼女がルーカスから引き離され、650kmを旅して戻ってくるというのが、もう邦題からだけでもわかるあらすじですが、気になるのは、猫がお母さんというところ。

  実は、私の大好きな絵本にも「猫に育てられた犬」が登場するのです。タイトルは、『猫のジョン』(なかえよしを作、上野紀子絵、金の星社)。猫に育てられたジョンは、成長するにつれ自分が兄弟のように「にゃー」と鳴けないこと、顔が長細いことに悩みます。それでも違いを受け入れ、兄弟仲良く生きていくというお話で、上野紀子さんの絵がとてもかわいらしいのです。

「猫に育てられた犬」がいるのなら、「犬に育てられた猫」もいそうなものですが、不思議と思いあたるお話がみつかりません。たぶん実話ならあるのでしょうが、小説や絵本となると思いつきません。そこで、はたと思ったのです。猫に育てられた犬は猫化するけれど、犬に育てられた猫は犬化しないのではないでしょうか。実際に犬と猫を一緒に飼っている方からは反論があるかもしれませんが、犬と猫に寄与されたイメージを考えると、猫は誰といても猫であり、社会性の高い犬のほうが「親代わり」の動物の影響を受けやすいように思えるのです。そういえば、実家で昔買っていた犬も、どこか人間じみていて、自分を人間だと思っているような節がありましたっけ。

 そういえば、『猫と東大。:猫を愛し、猫に学ぶ』『猫はためらわずにノンと言う』『老子と猫から学ぶ人生論』『かくれて、生きよ。101匹の猫に学ぶ「生きるコツ、かわすワザ」』などなど「猫に学べ」という本は何冊も出ていて、実は猫に育ててもらいたいのは人間のほうなのかもしれません。

 

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