茶色の朝 #はじめての海外文学

 10月13日に予定されていたイヴェント「はじめての海外文学スペシャル」が台風のため中止になってしまいました。この日のために用意していたスピーチ原稿(を加筆修正したもの)を以下にアップいたします。

 

★★

はじめての海外文学ということで、第四回の今年は「茶色の朝」(フランク・パヴロフ著、藤本一勇訳、大月書店)という本をご紹介します。

「はじめて」の海外文学ということで、ふだんあまり海外文学を読みなれていないひとにも、読みやすいように考えまして、この本、まず「短い」です。ぜんぶで50頁もないくらいで、絵本みたいです。次に、登場人物は「俺」と友人のシャルリだけ。途中で、これ誰だっけってことはありません。

 

茶色の朝」は、ある日、ある国で、猫が増えすぎたので、今後は茶色い猫しか飼ってはいけませんという法律ができるところからはじまります。たしかに猫が多すぎて困っているので、仕方がないねと思っているうちに、今度は「犬は茶色のものだけにしましょう」ということになります。まあ、茶色い犬は多数派だからねと言っているうちに、新聞も茶色い新聞一紙になってしまいます。そして、そして、最後はどうなるか、これは本を手にとってご確認ください。

 

これはね、けっこう怖い話です。お化けもゾンビもでてきませんが、怖い話です。ほんとはもっと明るい本がいいかなとも思ったんですけど、まあ、そういうのはほかのかたにお任せして、あえて、ちょっと怖い本にしました。

 

というのも、今、本屋さんでは海外文学の棚が減っています。少ないスペースだと、「まあ、ハリポタだけおいとけばいいんじゃないの」ということで、フランス文学を始め、英語圏以外のものはなくなります。やがて、こんどは、海外文学の棚自体がなくなっちゃいます。「まあ、日本の作家の作品で面白いものがあるし、翻訳ものなんていらないんじゃない」と思っているうちに、今度は日本文学の棚もなくなります。「まあ、電子書籍があるし、通販もあるし」と言っているうちに本屋がなくなります。そんなことにならないことを祈っておりますが…。でも、ちょっとだけ想像してみてください。

このところ、韓国の小説がたくさん話題になっています。私たちは翻訳を通して韓国文学を読むことができます。でも、翻訳なしで同じ本を読めるはずの北朝鮮の人はこの本を読めないのです。イスラム過激派の支配下にある国や、文革のときの中国、戦争中の日本……。海外文学を読むことができなくなることはこれまでもあったし、この先も絶対にないとは言えないのです。

ということで、皆さま、ちょっとだけ危機感をもって、ちょっとでも興味をもった本は今のうちに手に取ってくださいませ。どうか、茶色の朝が来る前に。

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